◆ 新刊『 老いのかたち ー 澄みわたる生の輝き ー』◆

 

 

本書は、クリスチャン・ボバンの短い作品二篇の翻訳である。
 
ボバンは、1951年、フランスの地方都市クルーゾで生まれ、
今なお新作を発表し続けている現役作家である。
 

表題作「老いのかたち」は、アルツハイマー病に冒された
自身の父親を中心に、父親の入居している老人ホームの
日常を描いたものである。
 
作者の彼ら老人に向けられた眼差しは、愛と尊敬とに満ちていて、
それがこの作品を極めて感動的なものにしている。
 
自分の書斎の窓から見える一本の老木の春夏秋冬と、
ホームの老人たちの受難の日々とを重ね合わせ、
その移り変わりを交互に記述して行きながら、
作者は、ごく日常的な、ありふれた風景の背後に、
目には見えない、もう一つの別の世界があることを、我々に教えてくれる。
 
そうして我々を、もっと本質的・本源的なものの存在する世界へ、
もっと清らかで、もっと美しい光の世界へと導いて行く。

斯くしてこの短い作品は、死と再生との壮大な物語へと変貌し、
真の意味における詩となって、我々の心のうちに現前する。

 

他の一篇「馬の頭をした曲芸師」は、
同じく生と死の問題を扱いながら、表題作とは全く違う、
昔話ふうの様式で書かれた、愛すべき小品である。

 

介護という、報われることの余りにも少ない仕事に携わっている人たち、
とりわけ言葉を失った老人の介護に、日夜心身をすり減らしている人たちにとって、
本書が、少しでも慰めと「魂の静安」とをもたらすことが出来たなら、
訳者として大変嬉しいと思う。

 

 

コメント

  1. はじめまして。山本浩と申します。関根秀雄さんのモンテーニュは一生の愛読書です。読まない日はありません。偶然このブログを見つけました。春の出版ですね。ぜひ読ませていただきます。わたくしは大阪の下町でクリニックを開く一開業医です。介護を必要とするお年寄りそのご家族と日々接しております。また感想を送らせていただきます。

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    1. 嬉しいコメントありがとうございます。
      頂戴したコメントに気づくのが遅くなり申し訳ありません。

      父が生きておりましたら、どんなに喜ぶことでしょう

      これから私もできるかぎり、
      モンテーニュの紹介に努めたいと思っております。

      新刊の見本が、今日でき上がります。

      ブログをゆっくり更新する予定ですので、
      気長にお付き合いいただければと思います。

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  2. こんにちは、平山久美です。
    明日から4日間、東京でワークショップを受講するのですが、
    講師から「自分の大切なものを持参せよ」との指示がありました。
    物体でなくても良いとのことだったのですが、
    先程、 キャリーバックに『老いのかたち』を入れました。

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    1. 投稿を頂いてから気が付くまでにひと月以上もかかってしまい、
      誠に申し訳ありませんでした。

      そのひと月の間に、私は読者から、とても個人的で、それだけに
      とても感動的な感想文をたくさん頂戴いたしました。
      それを読んで、文学は人の心と心を繋ぐことが出来るものだ、
      という実感を新たにすることが出来たように思います。

      踊るアートセラピストとしての平山さんにも、
      ワークショップでの反響など教えて頂けると有難いと思います。

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