◆ ユマニチュードとクリスチャン・ボバン ◆


 















本書を手に取ってくださった皆様、ありがとうございます。
 
ここで出版に至った経緯をしたためさせていただきたいと思います。


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2019412日付 東京新聞の夕刊に、
「認知症「人間らしい」ケア」という大きな見出しのもとに、
富山県立大学看護学部が、「ユマニチュード」というケアの技法を、
本年度から、必修科目として採用することになった、と報じられていました。
 
やっと日本でも、ここまでこの技法が普及し、
認知されたのか、と思うと、感無量のものがあります。
同時に、それは、私にとって、嬉しい驚きでもありました。

 

ユマニチュード」という介護の技法は、新聞記事にもあるように、
「フランス人イヴ・ジネスト氏とロゼット・マレスコッティ氏が開発し、
同国内で400以上の病院・介護施設が導入している」ものなのですが、
それを初めて私が知ったのは、
201429日のNHK「クローズアップ現代」という番組を見てのことでした。

 

クリスチャン・ボバンのla Présence pureという作品を私が初めて知ることになったのは、
この技法の開発者イヴ・ジネスト氏の『ユマニチュード』という本の序文に、
la Présence pureの数行が引用文されていたからです。
ただ、その当時はあまり気に留めませんでした。 
 

ちょうどその頃、夫がアルツハイマー病を宣告され、
余りの衝撃に、私は途方に暮れていたところでしたので、
とにかくこの「ユマニチュード」という技法について、
もっと詳しいことを知らなければ、と思い、
早速、出来るだけの情報を集めにかかりました。

 

『ユマニチュード』という本の正確なフランス語題名は次のとおりです。

 

Yves Gineste, Jérôme Pellissier :
Humanitude  Comprendre la vieillesse, prendre soin des Hommes vieux, nouvelle édition, Armand Colin, 2014.

 

 

この300ページを超える大部な原著を手にしたのは、
2014年の夏も終わり頃であったと記憶します。
この本には、すでに日本語版が出版されていましたが、
私はいろいろ感じる点があり、
自分自身のために、この本の翻訳することにしました。

 

翻訳してみて、『ユマニチュード』という本は、
単なる技術の解説書ではなく、
フランス・ユマニスムの伝統に根差した、
堂々たる哲学書であると感じました。


残念ながら、著作権の問題によって、
出版の願いは叶わず、少々気落ちしておりました。

 

そんな時、若い人から改めて
クリスチャン・ボバンという作家の存在を聞かされました。

 
そこでボバンという作家の作品を読んだところ、深く心を打たれ、
どうしてもこれを翻訳せずにはいられない気持ちになりました。

 

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「すべてを失ってしまった人たちにおいても、

人間の尊厳は、まったく損なわれることなく、

無傷で厳然として、そこに存在している。

この現実を、視線と言葉によって確認すること、それこそが介護なのだ」


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la Présence pureという作品は、
とても美しい、フランス伝統のモラリスト文学であると感じました。

 

 
早速翻訳に取り掛かり、夢中で翻訳し、
翻訳をし終えましたら、今度は、誰かに読んでもらいたい、
それもなるたけ多くの人に、と思うようになり、
 老いのかたち —澄みわたる生の輝き- 』を自費出版することに致しました。

 
 
















多くの方々のお力添えをいただいて、何とか翻訳権を取得し、
この度、やっと出版に漕ぎ着けたのです。
 
思えば、ほぼ五年にわたる長い道のりでした。

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